最終報酬月額が「おかしい」ときの役員退職金──どう計算する?
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役員退職金を計算するとき、多くの会社で使われている有名な算式がこちらです。
最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率
しかし、これは 「最終報酬月額が適正である」ことが前提 となっています。
では──
最終報酬月額が不自然に低い・事情があって下がっていた
などの場合はどうなるのでしょうか?
今日は、この “例外ケース” をわかりやすく解説します。
■ 最終報酬月額が適正でない場合は、この式は使えない
たとえば、次のようなケースです。
- 病気で業務量が減り、報酬を大きく下げた
- 業績悪化を理由に大幅減額
- 死亡退職直前だけ急激に下げた
- 役員退職金の算出目的ではなく、別の要因で“たまたま低い”
このように 在任期間中の功績を適切に表していない額 の場合は、
「最終報酬月額 × 在任年数 × 功績倍率」は使えません。
国税不服審判所の裁決(平成21年12月1日)でも、まさにこの論点が争われました。
■ 代わりに使われる計算方法:「1年当たり平均額法」
最終報酬月額が適正でないと判断されると、多くの場合で次の方法となります。
1年当たり平均額法
- 同業他社の「役員退職給与・1年当たり平均額」を算出
- その金額 × 役員の在任年数
- → 適正な役員退職金と認定される金額
実際の審判所事例では、次のような計算になりました。
▼ 審判所が採用した計算
- 同業他社3社の平均(1年当たり):5,898,261円
- 在任期間:42年
- 適正額:2億4,773万円
会社が計算した金額よりも大幅に増えるという逆転現象も起こっています。
■ なぜ最終報酬月額130万円が採用されなかったのか?
事例の会社では、直近の役員報酬は次のように変化していました。
- H9〜H9:170万円
- H9〜H15:223万円
- H15〜H17:130万円(死亡退職の直前)
審判所が「130万円は使えない」と判断した理由は以下のとおり。
- 病気による体調不良で業務量が落ちたための減額
- 業績悪化を見込んだ減額
- 前期比40%以上の急激な下げ
- 過去の水準(170万〜223万円)と比較して不自然
“130万円は功績を反映した適正額ではない”
と判断され、功績倍率法は不採用となったわけです。
■ 「過去の最高額(223万円)を使えばいいのでは?」は認められない
納税者側は、「だったら一番高かった月額(223万円)で計算すべき」と主張しましたが…
審判所はこれを 否定。
理由:
過去の最高額で計算すると、会社の恣意性が入りやすく、適正額とはいえないため
■ 「1年当たり平均額」はどうやって決めるのか?
正直、これはとても難しい論点です。
同業他社の退職金データを網羅的に揃えるのは民間では不可能。
TKCデータでも件数が不足しており、裁判所で否認された事例もあります。
(東京地裁 平成25年3月22日判決)
実務的には、
最終報酬月額を適正に維持しておくのが最も安全
ということになります。
■ 役員退職金のトラブルを防ぐポイント
✔ 無理に報酬を下げない
業績悪化でも、極端な減額は避けるほうが安全です。
✔ 死亡退職・病気退任の前に急激に減額しない
事例の審判でも大きなマイナス要素になっています。
✔ 同族会社の場合は、特に慎重に
「退職金を使って役員貸付金を相殺したい」などの動きは税務署に疑われやすい。
■ まとめ:退職時の“最終報酬”は軽く扱ってはいけない
役員退職金は金額が大きく、税務調査で必ずチェックされるポイントです。
- 最終報酬月額が適正 → 功績倍率法(一般式OK)
- 適正でない → 1年当たり平均額法
最終報酬月額の決め方ひとつで、退職金が 数千万円〜数億円 変わることもあります。
役員退職金については、税理士と必ず事前に相談しながら進めること を強くおすすめします。
田中雅樹(税理士)
●単発相談担当・税務顧問担当はタナカ本人です
●社長の「こうしたい」を取り入れた問題解決を提案
●県内の専門学校・非常勤講師として『租税法』他を担当(2019年4月~)
●FM-FUJI「教えて税理士さん」出演(東京地方税理士会広報活動)
●ブログは毎日

本日記
メインイベント「那須川天心vs井上拓真」の一戦を待ちつつこのブログを。
なんて書くとメインイベントしか興味ない感出ますが、他にも楽しみな日本人選手めじろ押し。
どんな結末になるかドキドキです。
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