この状況でも重加算税は課されない──「現金売上の計上もれ」裁決にみる現実的な判断
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秋は税務調査が本格化する季節。
特に現金商売をしている方にとっては、毎年この時期は落ち着かないかもしれませんね。
今回は、そんな中でも少し希望が持てる裁決を紹介します。
「現金売上の計上もれ」という典型的な事案でありながら、重加算税が課されなかったという事例です。
◆ 税務署が重加算税を課したがる理由
まず前提として、税務調査官が「重加算税」を課したいのには理由があります。
それは――人事評価に影響するからです。
重加算税の適用件数は、調査官にとって「成果」のようなもの。
もちろん、すべての調査官が数字重視というわけではありません。
が、「ここは重加算税をかけたい」と思う心理的な圧力が働くのは事実です。
◆ 事案の概要(令和5年12月4日・国税不服審判所)
今回の事案は建築業を営むA社。
税務調査で「現金売上の計上もれ」が見つかりました。
- 領収証を発行していなかった
- 現金の管理が不十分で、社長が私的に使ったように見える
- その旨を認める文書を調査官に提出していた
このような状況から、税務署は「隠ぺい・仮装があった」と判断し、重加算税を課しました。
◆ 審判所の判断
ところが国税不服審判所は重加算税は不要との判断。
その理由は次のとおりです。
- 領収証の控えを知人に渡し、後日まとめて商工会に帳簿作成を依頼していた
- 故意に帳簿へ記載しなかった証拠はない
- 売上もれは「手続上のミス」にすぎない
- 漏れていた金額は売上全体の0.2%ほど
つまり、「故意に隠した」とまでは言えないという判断でした。
◆ 「過失」と「故意」の線引き
ここがポイントです。
現金管理がずさんであっても、それが**「意図的」でなければ重加算税にはならない**。
逆に、「個人的に費消したと思われても仕方がない」などと発してしまうと、それが「認めた証拠」として扱われるおそれがあります。
質問応答記録書や提出書面は、裁判でも証拠として使われます。
焦って調査官の言い回しに合わせてしまわないよう、冷静な対応が必要です。
◆ 判例にも共通する考え方
この考え方は、過去の判決でも示されています。
- 東京地裁(昭和52年3月24日)
- 国税不服審判所(平成22年12月17日)
いずれも、「単なる記帳漏れ」や「管理ミス」では重加算税を認めないとしています。
◆ 経営者へのメッセージ
税務調査において、納税者はどうしても「疑われる側」に立たされるものです。
しかし、全てのミスが“隠ぺい”ではないということを、きちんと主張していく必要があります。
現金売上の管理が難しい業種ほど、
・日々の売上メモ
・商工会や税理士への早めの共有
・領収証の控え整理
こうした小さな積み重ねが、自分を守る盾になります。
もし「イベント売上」や「臨時収入」など、スポット的な現金収受がある場合は、
その都度メモを残すだけでも十分に効果的です。
重加算税を防ぐ一歩は、「正直に、でも記録を残すこと」から始まります。
◆ まとめ
- 重加算税は調査官の評価にも影響するため、課されやすい
- しかし、「故意でなければ」課されない
- 書面の文言や応答記録には注意
- ミスの再発防止と、日々の整理整頓が最大の防御
「うちは小さい会社だから」「現金商売だから」とあきらめず、日常の取引を少し丁寧に記録することで自分を守ることができます。
税務調査は“敵”ではなく、ルールの確認の場。
誠実に対応し、誤解を残さない姿勢こそが、最も強い防衛策です。
田中雅樹(税理士)
●単発相談担当・税務顧問担当はタナカ本人です
●社長の「こうしたい」を取り入れた問題解決を提案
●県内の専門学校・非常勤講師として『租税法』他を担当(2019年4月~)
●FM-FUJI「教えて税理士さん」出演(東京地方税理士会広報活動)
●ブログは毎日

本日記
数週間ぶりに昼寝を。
すっかり秋も深まって、いくらでも寝てしまいそうです。
本眠(仮眠の反対?)に影響が出ないよう20分で切り上げ。
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