一体で機能している固定資産の少額判定──税務調査であった誤解を解説
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秋は、春よりも税務調査が厳しく行われる時期です。
今回は、税務調査で中小企業が指摘を受けやすい「一体で機能している固定資産の少額判定」について解説します。
少額減価償却資産の特例とは
中小企業(青色申告者)が取得した固定資産は、次の条件のもとで全額損金算入が可能です。
- 1個あたり30万円未満
- 1年間で300万円まで
この制度はよく知られていますが、実務では次のようなケースで悩むことがあります。
- 機材がケーブル等で接続されている
- 組み上げられた状態で「一体で」機能している
- 全体の価格は100万円になる
このような場合、税務調査で「一体で機能しているから全体で100万円として判定すべき」と指摘され、一括損金が否認されたことが過去実際にありました。
果たして、これは正しい判断なのでしょうか?
さいたま地裁(平成16年2月4日判決)の事例
この論点を考えるうえで参考になるのが、**さいたま地裁の判決(平成16年2月4日)**です。
事案の概要
- 事業内容:衣料品販売のチェーンストア運営会社
- 各店舗に防犯用ビデオカメラを設置
- 構成:カメラ、コントローラー、テレビ、ビデオ、接続ケーブル
- 各機材の価格(1個あたり)
●カメラ:48,500~59,000円
●コントローラー:31,000~39,100円
●テレビ:15,000~28,400円
●ビデオ:18,600~20,000円
●ケーブル:2,000円程度 - カメラ・テレビ・ビデオはいずれも家庭用製品
税務調査では、
「一体で機能しており、全体で30万円未満の判定をするべき」
とされ、損金算入が否認されました。
裁判所の判断
しかし、さいたま地裁は次のように判断しました。
- 防犯カメラ等は監視目的のためにケーブルで接続されているに過ぎず、構造的・物理的一体性は稀薄
- 各機材には独立した機能があり、単独でも取引単位となる
- 特にテレビやビデオは家庭用製品であり、通常は単独で取引される
- 応接セットのように組み合わせて使うのが通常とは言えない
- 家庭用製品で特段の事情がなければ、個々の通常の取引価額で判定すればよい
結論として、
「防犯用ビデオカメラ等は全体で監視目的に使用されていても、一体の償却資産とはいえない」
→カメラ・ビデオ・テレビをそれぞれ別個の器具備品として扱うのが妥当と判断されました。
判決から得られるポイント
一体で機能していたとしても、以下の観点から判断すべきです。
- 構造的・物理的一体性はあるか
- 各機材に独立した機能があるか
- 単独で取引されるのが通常か
これらを踏まえ、30万円未満の判定は「個々」に行うのが原則です。
この考え方は、国税不服審判所の裁決(平成20年10月3日)でも支持され、納税者の主張が認められています。
税務調査での誤解と実務上の注意点
実務では、「一体で使っている」という理由だけで否認されるケースがあります。
しかし、それは国税側の誤解であることも多いのです。
また、税理士側も十分に反論できず、結果的に修正申告をしてしまうことがあります。
このような場合、単なる「見解の相違」として片付けられがちですが、実際には——
「国税の判断ミス」や「税理士の反論ミス」であることも少なくありません。
まとめの一言
一体で使っているように見えても、構造的・物理的に独立していれば、個々で少額判定が可能です。
税務調査では「一体性」という言葉に惑わされず、取引の実態と法的根拠で冷静に判断しましょう。
田中雅樹(税理士)
●単発相談担当・税務顧問担当はタナカ本人です
●社長の「こうしたい」を取り入れた問題解決を提案
●県内の専門学校・非常勤講師として『租税法』他を担当(2019年4月~)
●FM-FUJI「教えて税理士さん」出演(東京地方税理士会広報活動)
●ブログは毎日
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