消費税は誰の税?──“預り金”?“対価の一部”?矛盾に揺れる法と実務
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はじめに
消費税は「消費者が負担し、事業者が納める税」とされています。
これは、消費税法で明確に規定された考え方です。
つまり、納税義務者は事業者、実質的な負担者は消費者という立て付け。
しかし、これとは異なる解釈が示された裁判例も存在します。
そこから見えてくるのは、制度・判例・実務のあいだにある微妙なズレです。
「消費税は対価の一部」──1990年の裁判例
1990年、東京地裁(3月26日)および大阪地裁(11月26日)では、次のような判決が出されました。
「消費者は消費税の納税義務者とは到底言えない」
「消費税は対価の一部である」
この判決では、消費者が消費税を負担しているというよりも、商品やサービスの対価の中に消費税が含まれているという構造が重視されました。
つまり、あくまで事業者の取引価格の中に消費税が含まれており、それをどう使うかは事業者次第というニュアンスです。
(「消費者は消費税の納税義務者とは到底言えない」は、消費税法の考え方とズレていません。)
実務では「預り金」として処理
一方、日々の会計処理ではどうかというと、消費税(お客さんから受け取る消費税)は「預り金」として処理されるのが一般的です。
- 取引の際に、商品価格とは別に「消費税」を請求
- 受け取った消費税は「預り金」として一時的に処理
- 税務申告時に、それを国へ納付
この実務上の取扱いは、「消費税はあくまで消費者から預かったお金である」という意識に基づいています。
制度・判例・実務、どれが本当?
ここで浮かび上がるのは、法制度・裁判例・実務処理の三者間にあるズレです。
観点 | 内容 |
---|---|
消費税法 | 事業者が納税義務者、消費者が実質的負担者 |
裁判例(1990) | 消費税は対価の一部、消費者は納税義務者でない |
実務会計 | 消費税は預り金として処理され、期末に納税 |
インボイス制度が露呈させたズレ
このようなズレは、インボイス制度の導入時に改めてクローズアップされました。
たとえば、「免税事業者がインボイスを発行できない=取引排除される」という批判に対し、
「でも免税事業者は消費税を預かってるわけではないし、納税義務もないのに……?」
という疑問が噴出しました。
制度上は筋が通っているように見えても、感覚的には「なにかおかしい」と思わせるズレがあったのです。
おわりに
消費税は「制度として」は事業者が納税し、消費者が負担する税。
一方で、裁判では「消費税は対価の一部」とされたこともあり、実務では「預り金」として処理されている。
インボイス制度は、こうした矛盾や解釈の違いを表面化させた出来事とも言えるでしょう。
税制の背景にある理屈と、実務の運用。その両方を意識することが、今後ますます重要になりそうです。
田中雅樹(税理士)
●単発相談担当・税務顧問担当はタナカ本人です
●社長の「こうしたい」を取り入れた問題解決を提案
●県内の専門学校・非常勤講師として『租税法』他を担当(2019年4月~)
●FM-FUJI「教えて税理士さん」出演(東京地方税理士会広報活動)
●ブログは毎日
本日記
「梅雨明け十日」
…となれば、まだまだこの暑さが続くということでしょうか。
そろそろ事務所のエアコンが壊れそうな折、なんとかこの夏だけもってくれと祈るばかりです。
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