【外国人アルバイトの税務で要注意】租税条約の「学生条項」の適用と実務上の落とし穴―日中租税条約見直しの噂も踏まえて―
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人手不足を背景に、外国人留学生や研修生をアルバイトとして雇用する中小企業が増えています。
その際に必ず問題となるのが、租税条約における「学生条項」の適用可否です。
「留学生だから非課税でいいのでは?」
そう考えてしまうと、源泉徴収漏れという大きなリスクを抱えることになります。
本記事では、
- 租税条約における学生条項の基本
- 中国・韓国との租税条約の違い
- 日本語学校の学生は対象外である点
- 実務で問題になった裁決事例
を整理し、最後に今後の制度変更の可能性にも触れます。
■ 1. 租税条約における「学生条項」とは
多くの先進国との租税条約では、次のような考え方が採られています。
学生や事業修習者が、本国から生活費・学資金として受け取る給付については、一定期間、滞在国で非課税とする
たとえば、日米租税条約では、
- 免税対象:
生計・教育・訓練のために受け取る給付 - 条件:
国外から支払われるものに限る - 事業修習者の免税期間:
原則 1年以内
という、比較的オーソドックスな構造になっています。
👉 日本国内でのアルバイト給与は原則として対象外です。
■ 2. 例外的に「国内源泉所得」まで非課税となる日中租税条約
一方で、日中租税条約は他国と比べて非常に特徴的です。
日中租税条約の学生条項の特徴
- 対象者が広い
(学生・事業修習者・研修員) - 国内源泉所得(日本での給与)も免税対象
- 免税期間の制限がない
このため、中国人の事業修習者については、
条件を満たせば 日本で支払う給与でも源泉徴収が不要となるケースがあります。
ただし、その分、源泉徴収義務者(=会社側)の責任は非常に重くなります。
■ 3. 条約届出書は「最初だけ」でよいが、証拠管理が必須
日中租税協定に基づく取扱いでは、
- 条約届出書は
最初に給与を支払う前日までに提出 - 記載事項に変更がなければ
翌年以降の再提出は不要
とされています。
しかし、注意すべき点があります。
● 研修の実態を示す資料の保存が必須
- 研修計画書
- 実際の研修内容・実施状況
- 勤務実態の記録
これらが保存されていない場合、
在留資格があっても
「事業修習者に該当しない」と判断され
源泉徴収漏れとされるおそれ
があります。
■ 4. 韓国など「限度額・期間制限」がある条約も多い
すべての国が日中租税条約のように有利なわけではありません。
たとえば、日韓租税条約では、
- 学生
・年間2万ドル相当額まで
・免税期間は最長5年 - 事業修習者
・年間1万ドル相当額まで
・免税期間は1年以内
というように、金額・期間の制限があります。
👉 国ごとに条約内容が大きく異なるため、
「外国人アルバイト=非課税」という一律判断は不可です。
■ 5. 日本語学校の留学生は「学生条項」の対象外
ここは実務で非常に誤解が多い点です。
国税庁は明確に、
日本語学校などの各種学校の就学生は、学生条項の対象外
としています。
対象となる「学生」の定義
学校教育法第1条に規定する学校とは、
- 大学・大学院 → 対象
- 日本語学校 → 対象外
👉 日本語学校の留学生をアルバイトで雇う場合は、
居住者・非居住者の判定を行った上で、通常どおり源泉徴収が必要です。
■ 6. 事業修習者でも「在留資格と実態」が一致しないとアウト
実務上、特にリスクが高いのがこの点です。
裁決事例(平成21年3月24日)
-
形式上は「研修」等の在留資格
-
しかし実態は
研修計画と異なる作業(実質労働)
このケースでは、
在留資格の基準に適合しない活動をしている以上、
租税条約上の事業修習者には該当しない
とされ、免税は否認されました。
👉 「在留資格がある=条約適用OK」ではありません。
■ 7. 複数の勤務先がある場合の注意点
免税限度額がある条約の場合、
- 条約届出書は
1つの支払者にしか提出できない - 複数の会社で働いて限度額を超えた場合
→ いったん源泉徴収
→ 後日、本人が還付請求
という流れになります。
会社側での安易な非課税処理は危険です。
■ 8. 日中租税条約「見直し」の噂と今後の注意点
最近、高市内閣において日中租税条約の見直しが検討されるのではないか
という噂が業界内で聞かれます。
現時点では公式発表はありませんが、
- 中国だけが極端に有利な構造
- 制度の濫用リスク
- 外国人労働を巡る環境変化
を考えると、将来的な見直しがあっても不思議ではありません。
👉 だからこそ、
「今は使えるから大丈夫」という判断ではなく、
実態・証拠・手続をきちんと整えることが重要です。
■ まとめ
- 租税条約の学生条項は国ごとに内容が大きく異なる
- 日中租税条約は国内源泉所得まで免税される特殊な構造
- 日本語学校の学生は対象外
- 事業修習者は「在留資格+実態」が一致していることが必須
- 条約適用は源泉徴収義務者に大きなリスクがある
- 将来の制度見直しも視野に、慎重な対応が必要
外国人アルバイトを雇用する場合は、
必ず該当する租税条約を確認したうえで、条約届出書と証拠管理を徹底しましょう。
田中雅樹(税理士)
●単発相談担当・税務顧問担当はタナカ本人です
●社長の「こうしたい」を取り入れた問題解決を提案
●県内の専門学校・非常勤講師として『租税法』他を担当(2019年4月~)
●FM-FUJI「教えて税理士さん」出演(東京地方税理士会広報活動)
●ブログは毎日

本日記
昨晩から今朝方まで雨。
だいぶご無沙汰でしっかり降ったという印象です。
晴天で強風ばかりで近所で火事もありましたし。
まぁすぐカラカラになってしまうのでしょうが、火の元には気をつけましょうといことで。
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