【同族会社への貸付金は“額面通り”で相続税評価?】東京地裁判決から学ぶ、相続前に必ず確認したいポイント
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同族会社では、社長や親族が会社にお金を貸している──
中小企業ではよく見られる光景です。
ですが、会社の資金繰りのために貸したお金が「相続時」に残っていると、
その“貸付金”は相続財産として相続税の課税対象になります。
■ “返ってくる見込みが薄い”貸付金でも、評価額は「額面そのまま」?
会社の業績が悪化し、債務超過に陥っているような状況でも、
相続税の計算では 「貸付金の残高をそのまま評価額とする」
という扱いが基本です。
実質価値はもっと低いはずなのに、額面評価…?
これは納得しがたいところです。
まさにこの点が争われたのが、東京地裁 令和6年3月26日判決 でした。
■ 争われたケースの概要
- 被相続人が同族会社に貸していた金額:約5億8,889万円
- 国税側の評価:約5億8,889万円(額面通り)
- 納税者側の主張:約2億6,290万円
会社の状況はというと、
- 相続開始日に 約1億円の債務超過
- 売上高・利益ともに減少傾向
- 経営状況は緩やかに悪化
客観的には「返済困難」と言えそうな状態です。
■ 東京地裁の結論:国税側が全面的に認められた(納税者敗訴)
裁判所は 「額面評価が妥当」 と判断しました。
理由は次のとおりです。
- 役員報酬が支払えていた
→ 完全に支払い不能な状態ではない - 貸付金のほとんどが同族関係者から
→ 直ちに返済を求められる状況ではない - 金融機関から新規借入を行い返済できていた
→ 一定の信用力は維持していた
■ 裁判所は「実質価値の評価は難しい」とも明言
東京地裁は以下のようにも述べています:
- 貸付金が額面通りの価値をもたない場合はあり得る
- しかし 客観的・合理的に評価額を算定する手段がない
- 回収可能性に応じた評価は恣意的になり課税の公平性が保てない
- 国税側の負担や徴税コストが過大になる
よって、
貸付金は原則「額面評価」
回収不能が明確な場合に“限り”減額できる
というスタンスを明確にしています。
■ 過去に減額が認められた珍しいケースもあるが…
国税不服審判所(平成18年5月12日裁決)では、次の例があります。
- 貸付金残高:2億円
- 国税:2億円で評価
- 納税者:0円で評価すべき
- 審判所:約3,200万円
ただし、このケースは特異で、
- 会社の経営は「極めて危機的」
- 相続開始日時点で 事業譲渡・解散が“確実”
という状況でした。
ここまでのケースでも 「0円評価」は認められていません。
■ 中小企業こそ要注意!
「返済はできないのに、相続税は額面にかかる」
同族会社でよくあるのは、
- 資金繰りのために社長・親族が貸付を繰り返す
- しかし業績は改善せず、貸付金だけが積み上がる
という状態。
このまま相続が発生すると…
❌ 会社は返せない
❌ 実際の価値は低い
◎ でも相続税は“貸付金の額面”で課税される
という非常に厳しい現実が待っています。
■ 相続発生前にやるべきこと
- 借入(貸付金)の整理
- 債権放棄などの検討
- 持株会社化や利益計画の見直し
- 役員報酬設計の調整
※実行には法人税・贈与税の問題も絡むため、 専門家と慎重に進める必要があります。
■ まとめ:同族会社の貸付金は「相続前の最大のリスク」
相続税対策というと、
- 保険
- 贈与
- 不動産活用
などが注目されがちですが、同族会社への貸付金の整理はもっと優先度が高い 場合があります。
なぜなら、放置すると…
「返済不能なのに、額面評価で相続税だけ重くのしかかる」
からです。
相続はいつ起きるか誰にも分かりません。
元気なうちに、会社への貸付金(会社の役員借入金)の状況を必ず見直しておきましょう。
田中雅樹(税理士)
●単発相談担当・税務顧問担当はタナカ本人です
●社長の「こうしたい」を取り入れた問題解決を提案
●県内の専門学校・非常勤講師として『租税法』他を担当(2019年4月~)
●FM-FUJI「教えて税理士さん」出演(東京地方税理士会広報活動)
●ブログは毎日

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まだまだブラックフライデー。
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