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【社員を外注化できる?その境界線を裁判例から読み解く】報酬か給与かの分岐点をわかりやすく整理

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「社員を外注化したい」という話、しばしば耳にします。

  • 社会保険料の会社負担を減らしたい
  • 人件費の柔軟化を進めたい
  • 個人側も「手取りが減るのは嫌だ」と外注化を希望するケースがある

といった理由からですが、実はこれ、非常にハードルの高い話です。

今回は、裁判で争われすべての審級で納税者が敗訴した事例をもとに、「報酬」か「給与」かを分けるポイントを整理します。


■ 1. 取り上げる裁判例(東京地裁→高裁→最高裁)

今回の事例は以下の流れで審理されました:

  • 東京地裁(令和3年2月26日) 納税者敗訴
  • 東京高裁(令和3年8月24日) 納税者敗訴
  • 最高裁(令和4年2月3日) 上告不受理 → 納税者敗訴確定

つまり、「社員→外注化」への変更は税務上認められにくいという実例です。


■ 2. 事案の概要

● A社(塗装工事業・従業員4〜5名)

A社が社会保険加入を説明したところ、2名(甲・乙)が
「手取りが減るから外注にしてほしい」
と申し出たことから始まります。

その後の流れは次のとおりです:

● 甲・乙の処遇

  • 雇用保険の資格喪失届は提出済
  • しかし 業務委託契約書は締結なし
  • 甲・乙の報酬のみ「外注扱い」に変更

甲の動き

  1. 問題の支払期間:平成27年4月〜平成29年6月
  2. 平成29年7月に社員へ戻る
  3. 平成30年1月に “本当に独立” する

乙の動き

  1. 問題の支払期間:平成27年4月〜平成27年6月
  2. その後すぐに社員へ戻る

● 税務調査での指摘

この外注扱いが 「実態は給与」 として否認。
裁判でも会社の主張は認められませんでした。


■ 3. なぜ否認された?判断のポイント

裁判所が「給与」と認めた根拠を整理すると、
“外注”としての独立性が非常に弱かったことが分かります。

●代わりの作業者を手配していたのはA社

外注なら、自分が休むなら自分で代替要員を手配するのが通常です。
→ 実態は「社員の扱い」。


●作業時間が固定されていた(8:00〜17:00)

時間的拘束は“雇用”の強い指標となります。


●A社の指示で残業も発生

指揮命令系統がA社にあったと判断されやすいポイントです。


●「社員時代」「外注扱い」「再雇用後」すべて働き方が同じ

独立性が全く認められず、形式だけ外注に変えたと判断されました。


●他社からの仕事受注なし

独立した事業者ではない、と判断されやすい要素。


●寸志(ボーナスのようなもの)を甲・乙にも支給

これは典型的な「従業員扱い」です。


●仕事の完成とは関係なく支払いがあった

外注であれば成果に対する対価であるべきですが、
実態は労務に対する対価(給与)


●作業道具はすべてA社が支給

外注であれば、自分で備品を揃えるのが通常です。


●甲は修正申告で自ら給与所得と扱う予定だった

本人も実態は「雇用」だと認めているような状況です。


これらの要素から、「外注ではなく給与」と判断され、最終的にA社は敗訴しました。


■ 4. 社員を外注化する際に必要な整備ポイント

実務上、会社が本当に社員を外注化するなら、
次の点をクリアする必要があります。
ここでは「元社員」と呼びます。


●元社員による再委託(外注)が可能であること

独立した事業者としての裁量が必要


●休む場合は元社員が代替要員を手配

会社が穴を埋めてはいけない。


●時間・場所の拘束をしない

業務の性質上、最低限の拘束はOK。


●指揮命令をしない

必要最低限の指示はOK。


●成果物に対して報酬支払い

時給・日給での支払いはNG。


●備品は元社員が自分で購入

独立性の非常に大きな判断材料。


さらに次のような整備も必要:

  • 雇用保険の資格喪失手続
  • 業務委託契約書の締結
  • 旅費交通費は元社員が負担
  • 社宅に住んでいた場合は、オーナーとの直接契約へ変更
  • 最低保証額なし
  • 他社から仕事を受注できる環境整備

つまり、細かい点まで大量に整備する必要があるのです。


■ 5. 法律面でも外注化のハードルはさらに上昇

外注化を検討する企業は、次の法律も必ず確認しなければなりません。

  • インボイス制度
  • 価格転嫁指針(令和5年11月29日 公表)
  • フリーランス新法(令和6年11月1日施行)
  • 改正下請法(令和8年1月1日施行)

いずれも、独立した事業者としての保護や適切な取引環境を整備するための法律であり、“外注化の形式だけ整える”ことはより困難になります。


■ 6. 結論:社員の外注化は「不可能ではないが、非常に困難」

事例を振り返ると、

  • 甲:社員 → 外注(税務上は社員) → 社員 → 独立
  • 乙:社員 → 外注(税務上は社員) → 社員

この流れが示す通り、
形式だけ外注にしても税務では通りません

さらに、否認された場合には、

  • 他の社員とのバランス
  • 元社員の手取り
  • 給与体系の再設計

など、会社にとって大きな問題が発生します。


まとめ

  • 社員を外注化するのは「技術的には可能」
  • しかし実態を伴わない形だけの外注化はほぼ確実に否認される
  • 裁判例でも納税者は全敗
  • 外注化するには大規模な制度整備が必要
  • 法律改正により外注化のハードルは上昇している

結論としては、おすすめしません。

田中雅樹(税理士)

●単発相談担当・税務顧問担当はタナカ本人です
●社長の「こうしたい」を取り入れた問題解決を提案
●県内の専門学校・非常勤講師として『租税法』他を担当(2019年4月~)
●FM-FUJI「教えて税理士さん」出演(東京地方税理士会広報活動)
●ブログは毎日

 

本日記

ブログだけやっていてもなー、と思い始めてから2か月くらい経ってしまいました。
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